後継者問題
事業を継続していく上での後継者問題というのは、昨今の経済事情を加味して考えたとき、難しいですね。まずこれまでの市場が日本から消えつつある、という社会的背景の問題。それに加えて通貨危機。ど素人ながら、漠然とですが、あと2~3年で円は消滅するのではないかと考えています。
それと、日本人の指標として国政に携わる政治家を観察したとき、やはり人物の劣化が見られる。これは政治家だけがそうだ、ということではありません。
日本の津々浦々において、あらゆる組織が起している現象であると推察できます。一事が万事です。
また中小企業で云えば、後継者は息子しか有りえない。息子以外を後継者にする場合には、条件を整備しておく必要がありますが、これができません。
条件整備というのは、組織の形に普遍性を構築しておく、というこ。もう一つは、その企業のコア技術と外部からの信頼を、きちんと後継者に渡しておく、ということです。
ある中小企業に某大手商社が資本参加して、経営を握ろうとしました。その会社の老社長には子供がいません。従って社長にも経営をその商社に渡すことに異存はありませんでした。
ところがその商社が、経営内容を実査する過程で、そのコア技術も外部評価も、すべて老社長の手中にあると気が着いて、話は頓挫しました。
またその会社に、借金があるような場合は、子飼いの後継者と雖も、経営にタッチすることは嫌がります。後継者自身にその気があっても、その後継者が妻と相談すれば、妻が反対します。
従って、息子しか後継者は有りえないのです。
どこの会社でも、2代目、3代目が出てきております。2代目や3代目は概ね初代を超えようとするものです。初代というのは、知恵もあって大胆で、かつ個性的です。2代目は初代を強烈に意識して、その初代が世間受けしたところを真似し、そして超えようとするらしいのです。例えば、初代は事業も成功させたが、同時に取引先とよく喧嘩もして、その武勇伝が残っている場合など、2代目も、得意先で喧嘩をしたがる、というようなことです。
ところが2代目は、初代は喧嘩もしたが、懐も深くて喧嘩相手を掌に入れていた、という場合など、その懐の深かった部分は視野に入れず、喧嘩をしたところしか見ていない。
あるいは初代が人情家で、人の面倒をよく観たような場合でも、2代目、3代目はそこには目が届かず、いわゆる金儲けだけの技術が洗練されている、ということもあります。
経営の資質というのは、天凛のものではなく、後天的に取得されてしかるべきものであると最近はつくづく感じているところです。
しかしそれは、経営道を不断に追及した結果培われるものであって、経営道の根幹はつまるところ、深く人間の情動に通じることでしかありません。
後継者の恵まれた環境というのは、後継者には、天然自然のものに等しいのです。
親鸞聖人は嘆異抄において「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」という言葉を残していますが、これは親鸞聖人が自らに強烈な悪を自覚し、それこそ、身悶えするような懊悩の中で、己のどうしょうもなさ、を悟った結果の言葉です。
従って悟りには、自らを極限にまで昇華させ、同時に自らの限界を見極めるという2つの意味があるように思います。
およそこの世において完全なものなど何一つありません。後継者も、身内からしか出せないのが現状であれば、そこには選択肢はありません。
経営を任せて、口を出さないというのは、格好は良いですが、出藍の誉れ高き後継者というのはそうザラにはいるものでなく、おっかなびっくり任せて、後は神様に頼むのみ。
人間というのは、自らの内を凝視し深く見つめ、その等距離でしか、世間の認知はできません。自らの命への理解が浅ければ、世間への目配せもまた浅くなるのです。
従って部下の資質というのは、人間への理解度と大いに関係するもので、今の日本の妙な優しさを持って善しとする環境では、優れた経営者など育ちようがありません。
NHKの連続ドラ。もう終わりましたが「おひさま」は、善人ばかりが登場して、ニタニタ笑って、飯を食う。気持ちが悪いドラマでした。でもこれが日本の現状です。
そうは言いながらも、決して悲観しているわけでもありません。それは創業の古い会社からはやはり優れた後継者が出る、ということです。
ある100年企業ですが、その後継者の1人は40代で、もう1人は30代。この2人の特徴は、ほのぼのとした暖かさと、素直さを持ち合わせていることです。この2人からは風合の確かな「賢」が、匂うように立ち上がってきています。
このように書いて来ましたが、諸外国から日本を見ると、やはり品のいい国に見えるハズです。それが日本の歴史の証明です。同様に100年企業の後継者には、その威光とともに風格が備わっているのです。
今は、環境の悪い時ですが、なんとか忍んで例え小企業と云えども、これからの100年をめだして欲しいですね。