沈香も炊かず屁もひらず

日本税理士会連合会の業界紙である「税理士会」5月発刊号に税理士の社会貢献という視点で、豊崎正弘氏が小論文を書かれていた。
それはNPOの市川・浦安税理士ネットが平成17年度において「税に関する意識調査」を個人確定申告相談会場においてアンケート形式で実施したもので、その趣旨として、税理士の社会貢献と税理士業務のPRであると紹介されていた。私も興味があり早速同アンケートが公開されているという、ホームページを開いてみた。

質問事項は次の6項目になっている。

1今日はどのような内容の確定申告をされますか(複数回答可)
2あなた(このアンケートの回答者)の年齢はおいくつですか
3今の税の仕組みはあなたにとって解りやすいですか
4確定申告をすることによって、あなたの税への関心は高まりますか
5あなたの納める税金の使い道について感心はありますか
6あなたの納める税金を主にどこに使ってほしいですか(3項目まで複数回答可)
7その他「日頃感じている税に対するご意見やご提言などありましたら、なんでも結構ですからお書き下さい

1に対する回答としては年金の占める比重が41.2%と圧倒的に多かった。私も今年は1日だけであるが、相談センターで担当を受け持った。
それは堺の泉が丘会場であったが朝9時30分の会場と同時に、相談者が押しかけ、午前中はそれこそ休む暇もないほどの混雑ぶりであった。
年金受給者の年金収入額は平均して250万円もいくまい。勿論大会社で勤めていた人もいるから、企業年金も含めて600万円を超える人もいた。それは極めて少数であった。
堺の還付申告相談センターは、およそ1月間は開かれている。相談に応じる税理士は交代で毎日15名程度で相談センターでの相談は、決して高くはないが日当も出ている。国税の職員も同数はいた。
パソコン入力のアルバイト生も20名ぐらいか。部屋は5,600人の集会が可能と思われ相当に広い。相談センターの維持には相当の金がいるだろう。
250万円の年金受給者が納める税金はたかだか知れている。多くても数万円である。それも5万円はいかない。しかも年金受給者が源泉徴収されている税金はそう多くはないので、全額が還付されるにしてもまあせいぜい2~3万円である。また逆に確定申告をすることで納めることになる人も多くはない。
それに会場を訪れる人の中には相当の高齢者もいて、出向いてくるだけでも大変だと思われる人が少なからずいる。また還付相談センターでの税理士の役割は、相談にのるだけであり、申告書の作成応援はしないことになっている。
私は思うのである。250万円ぐらいまでの年金なら課税しなくてもよいのではないか。そうすれば、申告という手続きが省略されて、納税者も面倒で余分な手間が省けることになる。徴税コストも削減される。

2の質問は1の質問と同質である。他局のことは知らないが、大阪国税局管内での還付相談センターは年金受給者をターゲットにしている。当然60歳以上の人が多くなる。

また3の質問であるが、税の仕組みは解りやすいかという問いかけは、愚問というべきだ。わかりにくいに決まっている。税法の格言に「一読して難解、二読して不瓦解、三読して誤解」とある。プロが読んで解りぬくいのが税法なのだ。素人さんに解ってたまるか。
回答は解りにくいが73%を占めている。
問題は税法が解りやすく書けるかということだ。これが書けない。使われている用語には一字一句に解釈の決まりがある。しかも誤解を与えるような表現は慎まねばならない。一旦公表された法律に、幾通りもの読み方があっては困る。行間を読むことは許されないのだ。
更に加えて、時代そのものが複雑怪奇になってきている。税法もその時代を反映する。たとえばデリバティブ取引。この規定は法人税法なら61条5にある。この条文を読んでデリバティブ取引の課税関係がすべて理解できるという人がいたら天才である。
また、渡辺昇一氏は税金は所得税一本にして、一律10%でよいと主張されているが、そのようなものでもない。それでは納税者する側の公平感は担保できない。年収200万円の人の10%と1億円の人の10%では負担感がまるで違ってくる。

4の確定申告をすることによって、あなたの税への関心は高まりますか、という質問は、答えるのがあほらしいというのが本音ではないか。
回答は高まるが70%を占めている。しかし高まったからと言って、税の研究に走る人がいったい何人いるというのだ。市井の人がこの問題に関心を示すか、示さないだろう。家に帰ればビールを飲んで、昼寝してというのが、失礼ながら人の常。女の話でもなければ、人の噂でもない。税の話などそもそもが面白いテーマーではない。喉元すぎればなんとやら、確定申告が終わればやれやれというのが人情だろう。それに高まったからといって、一納税者に過ぎない国民が何をどのようにどうすればよいのだ。ほとんど何の手立てもない。

5の税金の使い道については、関心があるだろう。93.7%の人が関心があると回答している。役人がネコババしたとか、ルーズな使い方をして、行き先が不明などというのは、世の嫉妬を買うから、話題騒然となる。
社会保険庁の失態が、あれだけ世間を賑わしたのは、つい最近のことである。しかもマスコミはまったくの嘘は書かないまでも、本当のところは正しく表現しないで面白おかしく誤魔化して書く。すなわち嫉妬心に火がつくように書く。マスコミの性である。税に関して関心があるというのは、それは嫉妬心が疼くからだけだろう。
「世のなかに楽しいことの数あれど、隣の貧乏これが一番」
「隣に蔵建ちゃ、わしゃ腹が立つ」
というのが浮世の情である。これは関西の碩学、谷沢永一氏の書き物から頂戴したものだ。

6の質問への回答は結構バライテーに富んでいたように思う。その中で多かったのは、福祉と医療に対する期待であった。また表現の違いこそあれ、無駄使いをするなというのが多かった。しかし国家組織は人が動かしている。国家組織も突き詰めれば個人の集合体なのだ。しかも権力を持った個人である。市井の人間でも自由に使える金なら、自分だけのために楽しく使いたいのが人情だ。
税は国家の血液であり、国の運営には必要欠くべからざるものである、という理念に理性は付いていくにしても、感情ないしは情緒がそれを承認しない。しかもそれが無駄に使われているかも知れないとなればなお更だ。
しかし民草の側から無駄使いを戒めるなど望むほうが無理というものだ。税は納めれば終わりと諦めよう。

7の質問に対しては、「税を納めることは自分にとっては頭にきますが、支払えるということは幸福なんだ、とあきらめ、なぐさめています」とあった。まあ正直ないい感想だと思う。

このアンケートは全体として眺めれば、当初から回答が予想されるような質問を作って、予想されたとおりの回答がきただけの話だ。いったい何のためにこのようなアンケートをとったのだろう。上記の趣旨に適ってはいるのだろうか。ただアンケートをとることで、税理士と納税者の間に多少のコミニュケーションが成立することになるから、その分だけ相互理解が深まった、という程度の効用はあったかも知れない。