放歌高吟
田舎での話である。その昔、大人らは酒をよく飲んだ。酒の肴は鮪や鯨肉の造り、蟹缶、それから世間の噂話とほぼ相場が決まっていた。私といえば横でその造りを盗み食いしながら、大人の話を聞くのである。結構教訓に満ちていて大人になったときのタブーはそこで身につけたように思う。それに酔いが回ると唄を歌いだす。「お富さん」「チャンチキおけさ」それに「軍歌」もあった。村で酒を飲めない男は損な立場にあったし、それに酒が大いに飲めることが男としての信頼の証でもあった。以上はまだ酒を飲めない私の子供時の体験話である。昔の話であるから多少は変容しているかも知れない。
今、私は外では人と一緒であれば飲む、でも一人では飲まない。酒が飲めて好きということと、酒が無くては叶わぬということは違うのである。私の場合一人で飲む酒はそんなに美味くはない。
それに飲んでもへべれけになるまでは飲まないように心がけている。正月2日、へべれけとは言わないまでも、峰地さん宅では相当頂戴した。それもかなり意識をして飲んでいたのである。まあ勿論家内の運転付きという気安さと、明日も仕事をしなくても良いいう安堵感が働いたこともある。それに峰地さんの勧め方も上手であったのであろう。雰囲気がよくておいしく頂戴できたということもあるかも知れない。
しかしそれよりもなによりも、やはり子供の頃の記憶が大いに蘇ったのである。すなわちここでは酒を飲まない男は一人前と認めてもらえないという思いである。
しかし放歌高吟には至らなかった。これは時代の流れであろう。