税務調査の省略ということ

「書面添付」というのは、言葉としてまだ馴染みがないかも知れませんが、これは税務署に対して税理士が出す申告書や決算書の品質保証書です。
 書面添付制度は昭和31年の税理士法改正において33条2の第1項として創設されました。

それは「申告書の作成に際して行った計算事項の内容の記載した書面を添付することができる」というものでした。
昭和55年において、その第2項が創設され「他人の作成した申告書につき、相談を受けて審査を行った場合において、その審査内容を記載した書面を添付することができる」という制度が追加されたのです。

 これらの書類が添付された申告書について更正処分を行う場合、又は不服申立てに係る事案について調査を行う場合においては、その書面を作成した税理士に意見を述べる機会を与えなければならない、というものでした。
 しかし、意見聴取の機会が更正処分を行う前等に限られていたことや、税理士にとって書面を添付したことによる効果があまり感じられなかったため、普及はしませんでした。

 それが経済取引の国際化、電子化、情報化の急速な進展や、納税者の要請も複雑・多様化し、また規制緩和の流れもあって納税者の利便性の向上に資する信頼される税理士制度の確立を目指すとの観点から、平成13年に税理士制度の大幅な改正が行われ、税務調査の事前通知前の意見聴取制度が新たに創設され、拡充されたのです。

ではもう少し具体的に、書面添付の中身について触れます。法人税を例にあげますと、その22条4項で、期間計算における収益と費用に関しては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算しなさいと、規定されています。つまり会計帳簿というのは、すべての勘定科目について、正しい会計処理の基準に従いなさい、ということです。

書面添付というのは、税理士がこれらの勘定科目残高について精査をし、その精査をした範囲において、確証したということの意見表明をすることなのです。

書面添付制度に問題がないわけではありません。税理士が各勘定科目に関して原始証憑書類から目を通して、事実を確証したとしても、それが正しいと見るかどうかは、結局主観の問題に帰着します。

つまり、人間が、自らの眼と感性を介在させて判断をするという行為は、それがどのような過程を経ようとも、主観ならざるものはなく、そこに客観性などという尺度を充てようがないのです。
 当事務所も、この書面添付を実践しています。最近もこの添付制度を利用した法人関与先に対して、税務署からの呼び出しを受けました。結果は「現時点においては調査に移行しない」旨の文書を頂戴しました。

 調査に移行しない旨のお知らせ(すなわち「調査省略通知」)は、平成21年7月以降において、調査の必要がないと認められた場合に書面により課税当局から税理士に対して発行されるものです。今までも書面添付の実践はしてきていますが、この省略通知を受け取るのは始めてのことでした。
 この書面添付ですが、調査が省略されるケースというのは、過去において、税務履歴に汚れのない会社、すなわちそれまでの調査において、あまり問題点が指摘されなかった会社である場合が多いように思います。

 また書面添付は税理士から観て帳簿に適正性があるというものですが、書面添付をして、その結果、調査となった場合などは、実際に調査を受けてみると、結構非異事項が出たりするものです。それは法律に照らして、会計帳簿や税務処理が正しいというのは、先にも触れましたが、結局は観る側の主観の問題でもあるからだろうと思います。つまり税理士であれ、国税調査官であれ、同じ資料を監査し、同じ条文に照らして考えても、見解が分れることがあるということです。これは人のすることですから致し方ありません。

 ある調査で、税務官と話をしていたとき、書面添付をされて困るケースもあると聞きました。これは税理士の善意が、当局に困惑を与える、という話なのですが、その内容をここで公開することはしません。ストレートに書くと、誤解を生む可能性があります。

 申告に関して、税務調査官と意見を交換するというのは、参考にもなり、楽しいものです。これからも深度のある決算書と申告書を多く作り、税務調査を受ける機会はなるべく少なくしていきたい、と考えています。

次の記事

23年度税制改正