デリバティブ取引への課税は本当にできるのか

法人税法には、デリバティブ取引にかかる利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等の規定が設けられている。(法61条の5)
 その内容は、その事業年度末においてデリバティブ取引にかかる未決済の「みなし決済損益額」については、益金の額又は損金の額に算入する・・・というもの
但し、施行規則27条の7の2において、この課税から除かれている取引がある。それは
(1)先物外国為替契約等により決済時の外国通貨の円換算額を確定させた外貨資産等の換算の適用を受ける場合における先物外国為替契約等と、
(2)金融商品取引法第2条第21項3号若しくは第4号又は同条第3項3号から第5号までに掲げるものである。
 但し、課税から除かれる、といって、それには条件がある。それが面白い。その一つが、帳簿記載要件なのだ。上記(1)においては、この帳簿記載要件だけであるが、(2)については、他にも幾つかの要件がある。

 この帳簿記載要件が面白いと思うのは、こんなことで、税金が課税されないのはなぜか、と思わせるところなのである。
なぜなら、記載の時期が明定されていないからだ。すなわち後で(調査を受けた時点で)指摘されてから記載しても間に合う、とうことだ。

平成17年施行の会社法には、帳簿の記載時期が表現されている。432条で株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に正確な会計帳簿を作成しなければならない、とされた。ところが法人税法にはこのような規定はまだない。会社法の規定を借用するのであれば、その旨の記載が必要だろう。
 私の推測だが、税法は会計慣行などとの摺りあわせから、取り敢えずデリバティブ取引に関して、事業年度末においてデリバティブ取引にかかる未決済の「みなし決済損益額」についての課税を入れた。が、本質的なところでは、課税を見合わせているのではないかと思うのである。その根拠を述べる。

まずデリバティッブ取引への課税が創設された背景だが、会計基準が先行し、1985年に日本公認会計士協会から「債権先物の会計処理」が出されたのが最初である。それが1996年財務諸表規則の改正につながった。

 ところで商法は資産の評価損益の計上を禁止(商法34条)していた。2005年(平成17年)会社法成立。会社法431条では、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」と規定されたのである。
 その流れからすれば、デリバティブ取引において生じた未決済の損益は、財務諸表上は表現されなければならない。
 ただし会社法計算規則186の2において、この未決済の損益は配当可能利益から除外されている。そのようなところから、商法とは若干ニュアンスの差はあるが、会社法も債権者保護の思想を受け継いでおり、会計慣行への歩み寄りは見られるものの、こうした評価損益に対しては否定的と思われる。
つまり、配当財源としては認められていない。
法人税は従来から法人税法22条4項において、公正妥当と認められる会計処理に従って計算されるものとする、と規定されており、デリバティブ取引に関して、2000年(平成12年)に法人税法61条5項が新たに設けられた。

デリバティブ取引に対する課税の問題点は次のようなものである。
 (1)評価益に対する課税は、利益を担保するものではなく、担税力がない。それに評価損も評価益も、その計算根拠に客観性がない。
※クーポンスワップの評価の計算などは、その関係会社の専担者又は、専担部署に任されている。(法人税基本通達2-3-39)
 (2) 税務大学校研究部教授立石信一郎氏は「税務が果たすべき目的を達成し、デリバティブの時価評価という困難な問題に対処するためには、会計上の取扱いを追認するという姿勢をとることは適当でない。また、税務上拠り所となる規定がない状況において、税務執行面においての合理性を議論することは非常に困難であり、できうる限り具体的な規定を設け、税務上の時価評価の合理性を担保することが重要である」という論文を書かれている。

同大学の研究部教授の福田吉晴氏も「・・・仮に数学的モデルにより導き出されたとしても、その価額はキャッシュポジションが決済されるまで、単に理論的であるだけであり、そのような評価損益を課税所得計算の対象とすべきとするには疑問のあるところである」と述べられ、また「・・・市場性がある場合はともかく、市場性のないデリバティブ取引の期末評価が本当に可能なのか、また、税務の執行という観点から個々の妥当性を検証することができるのか」という疑問を呈していらっしゃる。

以上のことから、このデリバティブ取引に関しての時価評価の問題、及びそれに対する課税というのは、法律の手当はしたものの、実務レベルでは熟成したものではないと思う。
このデリバティブ取引は、公表される財務諸表上は大きな問題であり、財務諸表規則とも相俟って、大手上場企業においてはそれなりの処置がされている。
しかし税務実務上に馴染むものではない。それは会社法においても同じである。法人税は22条4項において、会計慣行の尊重を謳っている。平成12年に、法人税法61条の5に規定として、確認的に宣言はしたものの、実務での対応は難しい、と思うのである。

うなぎやの前で、「いいにおいやな」と呟いたら、親父が飛び出してきて、金払えといわれ、電車の中で屁を嗅がされたら、損害賠償請求が出来るのか。という問題と似たようなもの。

上記の論文が、それぞれインターネット上で公表しているというのは、意味深長。多分、調査官の卵たちは、大学でこの教授の授業は受けて、それを含んで卒業後は税務調査の一線に立つのだ。このような論文を公表しているということは、そこに国税局のスタンスも見て取れるということだ。
 穿った見方だが、課税当局としては、法律の手前デリバティブ取引に関しての評価損益には課税をしたくない、とは言えない。そこで税務大学校の教授方に言ってもらうことにした、とも取れるのである。
ところで、今年の決算期の8月末に円が仮に50円程度になったとして、取引銀行が計算した評価損2億円を申告したとする。法律の担保がある以上それはそれで認められるのだろう。
 では来年(24年8月期)で、仮に評価益が2億円出たとしたら、これは申告すべきか、
ということだが、もし今年の計算で2億円の損失を申告したのであれば、道義的には、やはりこの2億円の評価益は申告すべき、ということになるのではないか。
 では今年の評価損のみを申告し、来年において評価益を申告しなければどうなるのか、ということだが、まあ、税務署サイドからはズルイと思われるぐらいで済むのではないか。
ただ、この評価損が将来的に取り返せそうにないと、いうことであれば、事前に税務署と
相談をして、損失を計上すべきだろうとも思う。