TPP(環太平洋連携協定)

事業を取り巻く経営環境が、すべからく天然自然現象であって、後は経営者の経営力が試されるだけだと思うのは、無知である。
民間を中心として形成した一国の経済力が、その国の政治力を凌駕することなどありえないのではないか。最近の国家間の軋轢などを考察していると、つくづくとその感が強いのである。
現在の経済環境は国家間の力関係に左右され、それは戦争力を含めた国家のパワーが源になっており、為政者の胆力と知恵に負うところが多いと思う。
 またこうした経済の水面下での大きなウネリは、市井の事業家と雖も注視していなくてはならないところである。
 「TPP」とは「環太平洋連携協定」と訳されている。加盟国間の関税を撤廃し、サービス貿易、政府調達、競争、知的財産権、人の移動等の取り決めを含んだFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)の一つである。
 まあ有態に言って、これに日本が積極的に参加することがいいのかどうかはよく分からない。ただそれがアメリカ主導であるなら考え物だろう。
 アメリカがこれまで対国家間で発案したもので、他国が称賛するようなものは殆んどないのではないか。すべてアメリカの利益が巧妙に隠されていると考えたほうが良い。
 管首相も参加を表明したものの、TPPが国内産業に与える影響については、よく知らないことを表明している。TPPへの参加については39都道府県が反対ないしは慎重な対応を求める意見書や特別決議を採択している。
経済同友会など経済界は賛成を表明しているし経済産業省も同様のようである。
 日本の大手企業の大半は、国際的な生き残りを賭けて戦っているのであるから、日本への忠誠心を期待するなどは、無理というものだ。
しかし農林水産省はネガティブな対応をしている。
政府は経済界の動向に影響を受けて参加を表明したものの、日本にとってのメリットは本当のところ、わからないのだろう。
 例を挙げるなら、アメリカのモンサントは遺伝子組み換えの種子を世界中に売ろうと画策しており、モンサントと業務提携をしているのが日本の住友化学工業(株)らしい。
これなどはTPPに織り込まれたアメリカの狙いと云えるのだろう。詳細は省くが、インドでは2008年から2009年にかけて、数百万人の農民がこの遺伝子組み換え種子を導入して、その結果12万5千人もの農民が自殺に追い込まれている。
 また、ときおりニュースで流れる混合診療(自由診療と保険診療を組み合わせたもの、医院経営からすれば、診療の自由度が高く、お金も稼げるであろう自由診療が好いに決っている)などもTPPの一貫である。
混合診療が始まれば、国民皆保険制度は消滅し、高度な治療を受けられるのは金持ちのみとなる。そうなれば医療保険などもアメリカ資本によることが大となるだろう。
 このところの(あるいは日本においてアメリカの占領政策が始まって依頼かも知れないが)政府の政策決定の裏にいつもアメリカの影が見えることである。1990年(平成2年)代に突如として規制緩和の大合唱が起こり、日本はそれが正義、時代の流れと捉えたのであるが、あれはアメリカの陰謀であった。思えばこの平成2年頃が日本の最盛期であり、その後の日本は凋落の一途を辿っているように見える。
 国家において産業は、その強さの度合いにおいてハンディが与えられるべきで、規制緩和の名のもとに行われた市場経済主義などは、結局強者の弁、わがまま勝手に過ぎない。
 またリーマンショックは、2007年(平成18年)アメリカのサブプライムローンの破綻によるもので、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズを始めとした銀行が破綻をしたのである。
このローン債権は証券化されて多くの国の投資家に販売され、多大の損害を与えることになった。これも世界がアメリカに1敗食わされたのである。
 まあアメリカとまともに付き合えばロクなことがないように思う。今回の地震と津波に対してのアメリカの「トモダチ作戦」などは、軍人レベルでは本気かも知れないし、これには感謝すべきと思うが、国家レベルではどうなのだろう。
 最も中国でも韓国でもアメリカでも、国家はそれぞれ国益を担って行動するものであるから、アメリカを非難しても始まらないのである。
 避難すべきは我が国家なのだ。TPPに加盟することについては侃々諤々の議論を起して国民の理解を深めるべきだと思うのである。
 しかしアメリカがバックについていることというのは、規制緩和のときもそうだったが、殆んどなし崩し的に、アメリカの意向に染まってしまうようだ。
我が同胞の人の良さと無邪気さをそこに観てしまう。
 対アメリカとの関係において、戦後日本の言語空間は江藤淳が指摘したごとく、限りなく閉ざされている。
しかしそれはアメリカとの戦争に負ける以前、ペルーが日本に来たときに始まっているのかも知れない。
 日本がTPPへの加入をすることになればアメリカの日本占領はもうすぐ完結することになるのか。150年かかったな。こんな日本に誰がした。なに自らがなったということか。いささか自嘲を込めて。

 参考文献 
TPPに関するQ&A(農林中金総合研究所)

恐るべきTPPの正体(浜田和幸)

アメリカ起死改正の秘密兵器TPP(WILL5月号)

TPP加盟、これだけの危険(WILL4月号)

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