パソコンの是非

今や生産現場であれ、事務作業であれパソコンを抜きにしては考えられない時代となりましたが、パソコンの非能率性ということは意外と検証されていないように思います。
パソコンはソフトの充実もあって利便性は向上しました。またエクセルやワードなどの出現は、報告書の作成やデーターの加工などでも機能性を発揮しております。
 またインターネットの発達が、ブルタニカなどの百貨辞典を廃刊に追いやったことなどを考えると、今やパソコン抜きの生活はあり得ません。

 しかしパソコンの弊害ということも併せて考える必要がありそうです。
例えばデーターの作成などは必ずしもエクセルでないほうが良い場合があります。私の事務所で云えば、関与先に出向いて資料を書き写してきたような場合は、乱筆ではあっても、そのまま残した方が、証拠としては信憑性が高くなる場合があります。
 それをわざわざワードで清書するのは時間の無駄というものです。また残高を集計するような作業の場合は、数字の集計に重きがあるのであればエクセルより、電卓がよいに決まっています。
 ソフトの場合でも、使い方がわからなかったり、エラーを起こしたりで作業以前のトラブルで、思わぬ時間を食ってしまうこともよくあることです。

 またパソコンを使うことで勘は恐ろしく悪くなりました。昔は暗算でできていたような計算が、できなくなっています。パソコンを通じることで作業の過程が頭に残らないため、何でもないようなことを聞かれて即答できないということもあります。
 昔は借方と貸方の合計残高を合わすのに苦労をしたものですが、しかし仕事に習熟することで、その合わない原因がどこにあるかということの発見は容易に素早くできるようになったものでした。
 税務申告書も、手書きの時代は自由度が高く、計算式さえ理解していれば、難しくはありませんでしたが、今は税務知識がなくとも、ソフトの使い方を理解すれば書けます。
しかし、本質の理解ができないまま申告書を書いている場合もあるので、大きなミスが出ないとの保証はありません。
 税務情報などもパソコンで入手することが多くなりました。他方においては税法などを原文に当って、あるいは判例などの事例を丹念に研究するという姿勢は薄れたように思います。

 最初は人の技能をパソコンソフトに組み込んだのですが、その結果、技能が人間の側から消え、技能そのものを評価する目が、人の側に無くなってきております。
また従業員がパソコンに向っている場合、それがネットで遊んでいるのか、作業をしているのか判らないという管理上の問題もあります。ある大手企業の例ですが、優秀な女子職員があまりに優秀すぎて、1月の仕事を1時間で終わらしてしまい、後はネットで遊んでいたことがあったそうです。

このようなことは多かれ少なかれどこの企業でも起きているのではないかと思います。
作業を管理するためには、作業状態を管理するためのソフトが必要なのかも知れません。私の事務所ではこの2月から、これまで自由に書いていた業務日報をコンピューター管理するようにしました。
 これでクライアントの業務に要した時間と、その作業項目を日単位、月単位、年単位でいつでも見られるようになりました。しかし問題がないわけではありません。詳細に管理をしだすと、更に詳細なデーターが欲しくなる、といういわばアルコール中毒にも似た欲求が出て参ります。

 今年の事務所のモットーは「拙速は巧遅に勝る」としました。これを事務所に張り出してあるのですが、あるお客がこれを見て、多少は計算間違いがあっても、許されるのかとおっしゃいました。1円の計算ミスを発見するのに、相当の時間を要することもあります。しかしここを妥協すれば事務所の存在価値は無くなります。
 モットーを「拙速は巧遅に勝る」としたのは、そういう意味ではなく、無制限時間一本勝負というような、ダラダラした仕事の遣り方を止めよう、という意味です。
会計事務所の仕事というのは、まあ会計事務所だけのことでもないでしょうが、専門知識が要求されるものであり、この知識が業務をこなしていく上で圧倒的なスピードの差となります。実務知識を増やす勉強もしなければなりません。正しい知識を定見として持たない限り、ネット上で氾濫する情報に振舞わされることにもなりかねません。
 業務管理ソフトを入れたのは、私の思いとしては日常を細かく記録することで業務の無駄や不足に気がついて欲しい、ということです。また相互に記録を見ることで、学ぶこともあるはずです。
 会計事務所の業務というのは、計算業務などは平準化とスピード化を図るべきなのですが、他方においてはデーターを注意深く観察するということを疎かにはできません。

 また業務が拙速に過ぎるあまりにクライアントとの関係もまた薄くなることもあります。効率のみを追求したことで仕事そのものが非人間的なものになってしまうことだって考えられます。ここが軽くなりますと、仕事がつまらないものになるだけでなく、お客様が現在抱えている問題点を見落としてしまいかねません。
 そのようなところから各職員の業務をコンピューターで管理することが、本当に正しいことかどうかも迷いのあるのは事実です。

 日常の業務は、上から目線で管理仕切れるものではありません。当事務所のように担当者が、直接お客様との接触が多い場合は尚更です。職員には自主的かつ能動的に気持ち良く働いてもらう、ということに思いを致さねばなりません。
 パソコンソフトと、ヒューマンソフト、これをどのように止揚するか。難しい問題です。