税の交渉

出鱈目な話なので書くか書くまいか悩んだが、書くことにした。ただこの話、面白いと感じるのは私だけかも知れない。
租税法というのはやはり厳格な適用を要請されるもので、またそうでなければ、法治国家ではなくなる。しかし法には限界もある。一筋縄ではいかない。
話というのはこうだ。
倒産寸前、借金まみれの会社が、わが事務所に飛び込んできたと思って欲しい。しかし決算書を吟味してみると、借金さえなければ、事業の内容は将来性がありそう、ということで、会社分割をすることにした。会社分割というのは、会社法のもと、一つの会社を二つにすること。すなわち一つの会社を二つにして、事業を新しい会社に移し、いらない借金などを古い会社に残したのだ。
問題はその残した古い会社でのことである。事実上破綻した会社であっても申告はしなければならない。
 困ったのが消費税。決算内容は大幅な赤字なので、直接税は算出されないが、消費税はそうはいかない。ところが、これを正しく算定しても納められない。経営は青息吐息。
経営者自身は家を売り払い、借家住まい。新しい会社も不景気と相まって、計画通りに売上が伸びない。残ってくれた従業員の給料も遅配ぎみ。
事業は売上に先んじて費用が発生する。とにかく金の工面ができない。税制に矛盾を感じるときでもある。迷った末、過年度損益修正損(粉飾ばかりしてきた会社なので、一気に膿を出した)の一部を借用して課税仕入とし、僅かな税額を記載した申告書を提出した。
粉飾ばかりしてきた会社だから、過年度修正損の中にも、課税仕入に相当するものはあるだろう、という理屈である。しかし、法に照らせばこんなのは屁理屈、だんご理屈の類だ。
忘れ掛けたころ、所轄の税務署から電話が入った。問答は以下のようなものであった。

税務署 「○○署法人税課の××です。△社の消費税に関して、修正をお願いしたいのです。調査は省略いたします」
私 「ああ、あれですね。私も申告書を作成するときに悩んだのですよ。状況はお察しのとおりと存じますが、まともに税金を確定させても、とても払えませんよ」
税務署 「そうは言われても、私も困るんです。見逃せば私が馘になります」
私  「しかし、租税債権を確定させても、取れなければ署の徴収部門が困るのではないですか」
税務署 「いやそうではありません。会計検査院の調査が入れば、言い訳ができません」
私  「そうはおっしゃられてもねえ・・・」
税務署 「とりあえず、私の方で修正の内容を送りしますので、ご検討下さい」
私  「わかりました。ではそれを見せて頂いてから、返事を差し上げます。ただ、ちょつと仕事が混み合っていますので、回答は7月の半ばごろになります。よろしいでしょうか」
税務署 「え、7月の半ばですか。それでは私が移動してしまうかも知れませんが・・・
わかりました、そのときは後任の者に申し送りをしておきます」

しめた、と思った。担当が変われば状況が変わる、と考えたからである。まあこの辺りが
自分自身に嫌悪を感じるところ。なんせ考えることがセコイ。
 送られてきた修正の内容は、署も現状をよく理解してくれているようである。しかし
問題はその金額だ。
昔ある学者が、所得税は5%(10%だったかも知れない)一律にすれば税法は簡素にな
るし、納める側も納めやすい。それで税金も十分確保されて国庫も潤う、と言っていたこ
とがある。
しかし納める側からすれば税率ではなく、その額が問題になる。所得が1億あったとして
10%なら1千万円。300万円の所得の場合は30万円となるが、実際納めるとなると、
躊躇する。人情とはそのようなものだ。

7月の中旬、署に電話を入れた。担当は変わっていたが、前回の会話が、録音されている
のではないかと思うほど前任者と同じことをいう。
 今度は私が納税する側を説得する番。税理士は医者であり、役者であり、芸者であり、
誰が言ったか。まるで漫才だ。最初に出鱈目な話としたのは、
このような事情による。

私 「もしもし、例の件ですが、やはり修正申告が必要です。応じますか。苦しいのは私
もよく理解できますが、いたしかたないでしょう」
会社 「わかりました、しかし全然おカネがありません。どうしたものですかねえ」
私 「署としては、とりあえず修正申告を出してほしいとのことです。分割支払を含め、あとはどのようにして払うかは、任せてくれています。」
会社 「そうですか、仕方がありませんね。わかりました。では社長の了解を得て、申告書を提出するようにいたします」

その後1月ほどして、また署から電話が入った。穏やかな口調で「督促状を出しました。
出しただけですから、あとはそちらでお考え下さい」。電話の向うでにやにやしているよ
うな雰囲気。修正申告時に喧嘩をしたわけではないが、結構言葉の応酬があっただけに、
署も印象が残っていて状況に配慮し、わざわざ電話をくれたのだ。
税務官にしては、話のわかる人だなあ、と思わず親近感を覚えたものである。
それはそれとして、本当にこれでよいのだろうか、という思いが走る。
本来なら呼び付けて、これをどのように収めるか、計画書を出さすべきなのだ。例え月5
千円でもよい。
想像するに、税務署も大変な状況にあるのだ。昨今の経済状況を考えるなら滞納案件大幅
増加は間違いのないところ。滞納処理するところまでは、手が回らないが、とりあえず租
税債権だけは確保しておこう、ということなのだろう。
しかし、いずれ納めなくてはならない。様子をみて会社には話をしなければならない。
そもそも事業が破綻した原因も、景気の悪化にあるのではない。景気の悪化は倒産の直
接的原因ではなく、単なる引き金だ。本当の原因は野放図な経営を積み重ねた結果なの
である。