当世商売堅気(失敗するコツ)
(1)営業マンには兼業をさせよう
営業部門は会社の盛衰を担っています。その分プライドも持っています。いや営業部門には、会社の顔としてのプライドを持って貰わねばなりません。営業は内においてはノルマを要求され、外に出てはクレームを聞き、値引要求をされ楽な仕事ではありません。
しかし遊ばしてはなりません。社内にいるときには製造にも携わってもらいましょう。得意先のことがよく分っていますから配送業務や梱包業務もいいかも知れません。それはプライドの高い営業マンには最初は苦痛かも知れません。しかしそのうち慣れてくれることでしょう。営業をしなくても他の仕事で給料が貰えるとなれば、楽をしたいのは人の常ですから、プライドも捨ててくれます。こうしたことを継続することで、間違いなく売上を落とすことができます。
(2)製造現場ではコストの安い派遣社員を遣おう
営業が狩の世界とすれば、製造は農耕の社会です。農耕に必要なのは四季の運行、田畑、作物の特性といったこと(各得意先の個性、機械の癖、材質の特性)に長けていなければなりません。派遣社員やアルバイト社員は、愛社精神は欠けています。会社に対する思い入れというものがありません。
また得意先や機械、それに材質など対しては無知であることを恥辱とは考えません。ですから信頼できる製品はできません。お得意様から信頼を失うには、派遣社員やアルバイトを多用するのが効果的です。
(3)経費節減のため、社員さんとの飲み会や旅行はやめよう
昔、社員旅行というのがありました。酒の席では大いに発散して喧嘩はするはゲロは吐くは、飲んだ勢いで女子社員にチョッカイは出すは、まあ結構大変なものでした。しかしそれは、親睦を深め、また日頃は見ないそれぞれの個性(癖)を発見して、それを次の仕事に生かす良い機会でもありました。また、若い社員を旅行部長に指名することで、次世代のリーダーシップを養うことも出来ました。
今でも成績優秀な会社は、飲み会や旅行を定期的にやっています。
しかし税理士として助言します。経費を節減して利益を最大化するために、社員旅行や飲み会はやめましょう。
(3)受注した製品は、図面どおりに製造することで良しとしよう
最近は大手メーカーも図面を描くだけで物造りをしなくなっています。物造りを知らない社員氏が描いた図面は、製作の裏づけがないだけに間違いも多いようです。また、旧来の製品をリニューアルするような場合、旧の図面をパソコン画面上に呼び出して、それを修正することが結構あるらしいのです。それは安易ではありますが、間違って修正をしたことに気が付かないことも多いとのことです。それを受注して、設計書どおりに造れば当然おかしな製品を納入することになります。発注したのは、発注元の社員氏です。受注する側は、もともと弱い立場にあります。社員氏は保身を働かせます。さて信頼を失うのはどちらでしょう。
受けた製品は試作をせず、図面を信じていきなり製造に廻しましょう。受注元に出向いて擦りあわせをするなど、時間の無駄というものです。信頼を醸成する行動をとってはなりません。
(4)社員さんとは友達になろう
社員さんに気持ちよく働いてもらうには、社長自らがフレンドリーな態度で、にこやかに社員さんに接することが大事です。資金繰りで困っていることを話せば同情をくれるかも知れません。飲み屋のねーちゃんにちょっかいを出して、えらい目にあった話しなどを告白すれば親近感を持ってくれるでしょう。たまには「そんなの関係ねー」ぐらいの冗談は言うべきです。
まあしかし尊敬はされませんし、畏怖心も持たれません。
それに社長というのは常に社員に肩車をした状態にあるということを、社員の皆様は承知しています。
(5)いつも忙しく振舞おう
社長とは忙しいものです。ついイライラして社員さんを大声で叱り飛ばします、しかもいつも同じことで叱らねばなりません。ところが社長の目に付いた前と同じ失敗というのは、微妙なところで前の失敗とは違っていることも多いものです。前の失敗は、社員のせいだったかも知れません。しかし今度の失敗は社長の指示ミスだったかも知れないのです。
社員さんも社長が怒鳴ることにはいつか馴れてしまいます。しかし自ら進んで仕事をする人は居なくなります。優秀な社員は去り、新人はすぐに辞め、残るのは古参で従順でやる気のない人たちです。
社長はそのうちシャッターの開閉まで、いちいち叱る必要に駆られることでしょう。そうしてますます忙しくなるのです。
(6)得意な分野で勝負しょう
たとえば技術畑の社長を例にとりますと、技術に強い経営者というのは、自分が気に入った製品については、それをとことん追求するものです。市場性は無視、売れようが売れまいがお構いなしとなります。それが仮に一つ売れたとします。もう有頂天です。しかしせっかく売れた製品ですが、新製品であるだけに欠陥が見つかり、クレームがきました。
そうだ、このクレームを改善すればきっと爆発的に売れるに違いない、と錯覚をします。そこで夜を昼に継いで改善に没頭します。高いお金を出して新たな金型も製作しました。そうして何とか欠陥を修正して、お客様の要望に応えました。そうしたところ、更に二台売れたのです。
社長は自らの無謬性を確信します。そこで今度は大々的に公告を打つことにしました。その効果もあって注文はパラパラと入ります。しかし思ったほどは売れません。社長は自らに疑心を抱きます。そうだ売れないには、私の技術が未熟であるからに違いがない。そう考えた社長はさらに、その製品の改良に心血を注ぎます。まさに遺恨十年一剣を磨く状態となります。
手形が不渡りになるのは時間の問題です。
(7)貫禄を誇示しょう
社長たるもの威厳と権威が大事です。威厳を保つためには服装はブランド物に限ります。社内では大声で話しましょう、電話に出たときは快活に。そうして朝は11時ぐらいに出社しましょう。中堅中小企業の経営者が絶対に放棄してはならない業務はお得意様との交際であり、人事であり給与の決定ですがこれも社員に任すべきです。そうすれば太っ腹に見えます。人事や給料の決定を社員に任すのが不安なら、嫁がいいですね。
権威は付き合う友人によって保証されますから、顧問弁護士は有名人に限ります。顧問料が高いのは致し方ありません。またお相撲や政治家のタニマチになって、交際費もじゃぶじゃぶ遣うことです。
それが続けられるうちは、ゴンドラに乗って天空を翔けている気分を味わえるものです。
(8)月次試算表は作る必要はありませんし、見る必要もありません
社長にとって大事なのは商売カンです。なんぼ儲かったかは常に頭のなかにあります。また儲かったとなれば顧問税理士の忠告に従って節税をすることです。生命保険などは手っ取り早く節税できる最大のものですよ。
車を買うのもいいですね。2年しか乗っていないクラウンであっても、シーマぐらいには乗り換えましょうよ。お金は残りませんが、税金は少なくてすみます。試算表は見るにしても、損益計算の部分だけで十分です。そうです、利益をいかに圧縮するかが大事なのです。
貸借対照表がどうなっているかは無頓着でOK。在庫が増えていようと、売掛金が月商の数倍あろうとも、あるいは借入金が年間売り上げを超えていようと、一切無視してかまいません。
心配しなはんな、なんせ倒産は一瞬ですわ。