神泉水(19.10.15日)

沖原徳則君が洞川で忽然と消えて1月以上になる。9月1日、税理士仲間6名で山上岳に登るべく洞川の丸文旅館に投宿。翌朝6時、3名は女人結界門まで、旅館の車で送ってもらった。その時刻2人は登らずに帰るとういうことで、寝たままだった。
沖原君はマラソンが趣味ということもあって旅館の前から走ることになり、車の中から彼に手を振って別れたのが6時前後、それが永劫の別れになったようだ。彼がどの山を目指したかは不明。
 そのこともあって、最近日曜日ごと洞川に向うことが多くなった。勿論、洞川に行くのは沖原君のことがあるからだけではなく、私の今年の計画に山登り50回を入れていることもある。山上岳から南東に位置する稲村岳には2回登った。昨日は観音峰を歩いた。
観音峰は、洞川温泉街からちょうど南に位置する山で、標高は1347m。洞川が既に800メートルほどの高さにあるから、麓から頂上までは500メートル程度であろうか。歩いた距離にして17キロ程度かと思う。これは身に付けていた万歩計からの推測である。
 山上岳も稲村岳も標高1700mを超えており、頂上に至る路はいずれも一歩路といってよい。滑落しそうなところは数箇所あるが、一見して滑落しそうであるがゆえに安全でもある。枝路はなく、くっきりした一本路である。しかもそこには捜索隊が入ってくれている。
 観音峰は山上岳や稲村岳に比べて優しい山であり、枝路も無数にありそうだ。観音峰から観音平に降りるところは、また路が分り辛い。分り辛いだけでなく、右手に洞川の温泉街が見えるのである。もしこの辺りで、路を外して温泉街の方に向えば迷うこともあるだろう。私の経験に照らしても、迷うときというのは、路でないところが路に見えるものだ。
人生で過ちを犯すのと似ている。
 観音峰には私と私の家内、それに家内の友人の3名で登った。虻トンネルを抜けたあたりに車を止めて登山を開始、法力峠から母公堂に降りた。
 ここからは遊歩道を虻まで歩くことにした。遊歩道は川沿いに造られている。沖原君は走るのが目的であった。この遊歩道などは傾斜がなく、走るのには持ってこいである。しかしこの道で足を踏み外したとしても、すぐ誰かが発見してくれたであろう。
この遊歩道の途中に蟷螂の洞窟というのがある。ここに寄ることにした。入窟料は1人300円で、それを払えばライトを貸してくれる。25年ほど前は、ライトではなくカーバイトであつた。今この洞窟を管理しているのは昭和3年生まれのおばあさんである。なかなかの話好きで、聞いていると洞川で「スナック山」を経営しているのだという。スナック山といえば9月1日の夜、旅館での食事のあと沖原君らと向ったあのスナックである。スナック山は仲間の曽和さんと筒井さんのお気に入りの店だ。そもそも山上岳に登ることになったのもこの2人が毎年この時期に登っていることにある。
 2人からはこのスナック山の話は聞いていた。ところが9月1日、このスナック山は閉まっていた。しょうがないので隣の店でうどんを食った。従って私はこのママに会うのは初めてであった。
 家内とその友人は管理人のおばあさんから神泉水を頂戴してペットボトルに詰めた。神泉水とはそのとき私が勝手に付けた名前で、この洞窟の一角から湧き出している水である。それも1日の湧出量はたいした量ではないらしく、この日も朝の客が汲んで、私らで2組目らしかった。
 おばさんも、気に入った客にしか教えないのであろう。私らがこの洞窟に入る前に入った夫婦連れはこの神泉水を知らずに帰った。
 なんでもこの洞窟は大峰を開いた役行者が修業をされた場所だそうである。中には30名程度なら容れそうな池もある。ライトで照らすと深さ1m程度透明な水を湛えている。案内には「役行者様が行水をされた池」とあった。私らはありがたくこの神泉水を頂戴して帰った。