検証金融円滑化法
この文書は、5月の毎木曜日日日新聞朝刊に載るものです。
NPO関西事業再生支援センター理事
税理士 倉 矢 勇
電話06-6770-6600
1中小企業金融円滑化法の背景1
2010年12月4日、中小企業金融円滑化法が制定されました。この法律はデフレ圧力、世界的景気の下振れなどの状況により中小企業者および住宅ローンを抱えた個人で、その借入金の返済が困難となった者に対する資金繰り対策として、2011年3月31日までの時限立法として成立したものです。
しかしこの円滑化法は「金融機関の業務の健全かつ適切な運営の確保」にも配慮されておりますから、債務者にのみ目を向けたものでもありません。私の事務所のお客様についてみるとリーマンショックが起きるまではその7割が黒字経営でした。私にはこれが自慢でした。しかし今は8割のお客様が赤字に転落しております。
例えば製造業で年商12億円の売上があって、その借入金が4億円であったとします。ところがその売上が5億円まで急落したと考えて下さい。借入金はそのままですから年商に対する借入金の比率は80%となります。
これをお読みになる方で、製造業の実情をご存知ない方もいらっしゃると思いますが、売上が半分になったというのは誇張でもなんでもありません。またTKCが出している賃金指標をみましても、2008年度における大阪府下製造業で40歳の年間賃金平均は490万円ですが、これが2009年度には410万円まで下がっております。
実に16%の減少となっております。雇用者は運転資金に苦しみ被雇用者は住宅ローンで苦しむという、労使ともに大変な状況のなっているのです。
2中小企業金融円滑化法の背景2
中小企業円滑化法では、中小企業や住宅ローン借入者から申し込みがあった場合は、金融機関においては、でき得る限り貸付条件の変更等適切な措置を求めるという努力義務が課せられています。
また行政上の対応として、金融機関は貸付条件の変更等の実施状況を当局に報告しなければなりません。
この法律の適用対象者については明記がされているわけではありませんが、いきさつからして、リーマンショック後の外部的な要因で経営が悪化した企業及び、当該企業に勤務している住宅ローン借入者であって、2~3年後にはその事業が好転することが期待される中小企業、その企業に勤めていて一時的に住宅ローンの返済が滞った者が考えられています。
しかしこの中小企業金融円滑化法がどれだけの効果を持つかについては、定かではありません。
なぜなら2008年11月の貸付条件緩和措置で、既に16万件弱についてこの緩和措置が取られているからです。またこの法律が2011年3月31日までの時限立法とされたのは、政府としては、それまでにわが国の経済状況を立て直すとの意志を示したものであるといわれております。
日銀は今年の3月17日通貨供給額を10兆円からが20兆円に拡大するとの報道がされ、4月10日には鳩山首相とデフレ克服に向けて定期会談をもったとの報道がなされました。少しは期待したいと思います。
3中小企業金融円滑化法の問題点
弱者は保護されるべきというのが最近の時代の風潮です。池田勇人は「貧乏人は麦飯を食え」と言った勇気ある政治家です。しかしこの発言はマスコミの好餌となりました。
鳩山由紀夫首相は「友愛」を主張し、子供手当法を成立させました。これには賛否両論がります。私はこの法律を快く思わない1人です。理由は単純で子育ては親の義務であると思うからです。
ところでこの中小企業金融円滑化法はどうでしょうか。そもそも企業が銀行からお金を借り、金融機関がこれに応じるというのは、民・民の相互信頼に基づく金銭消費貸借契約であって、国が口出しをすることではありません。
しかもこの円滑化法はこれからの新規融資に一定の縛りをかけるというものではなく、既に締結され実行されている融資に対して返済を猶予しても構わないという、お墨付きを国が与える構図になっております。
確かに金融情勢は厳しいものがあります。私も最近、お客さまが資金繰りに支障を来たしたためこの法律を根拠にしてリスケのお願いに銀行回りを致しました。廻った金融機関はおおむね好意的な対応をしてくれました。
しかし安易にお金を借りて、返さなくてもいいというようなことになりはしないでしょうか。その結果金融機関にしましても、おいそれとは融資ができなくなり、結果として貸し渋りが起きるというようなことになりはしないかと心配です。
4中小企業金融円滑化法施行後の銀行との折衝
2008年11月の貸付条件緩和措置で、既に16万件弱についてこの緩和措置が取られていることは、前々回に書きました。
ではこの円滑化法が施行された2010年12月4日から、リスケのお願い対する金融機関の応接態度がそれ以前と変わったのかといえば、そのようなことはありません。一緒です。 ただリスケをお願いする側からすればこの円滑化法の援用があるだけ、気分が楽になったというようなことはあります。
リスケのお願いに際して、ある銀行からは、社長の個人保証を要求されましたが、社長は応じませんでした。またある銀行では、追加担保を出せば新規融資にも応じるとの約束で追加担保を出したところ、これは反故にされ、追加担保を提供しただけに終わりました。
しかしいずれの銀行も当分の返済猶予には応じてくれました。ただいずれの銀行も経営計画書と資金繰り計画書の提出を要求されました。また元本の猶予してくれましたが、金利を若干上げられ、かつ返済条件の変更の伴う手数料を要求されました。
金融検査マニュアル別冊の改訂により、経営再建計画等の策定が可能であると見込まれる場合には、計画等の策定を最長1年間猶予し、その間は「貸出条件」緩和債権に該当しないこととされましたが、このことが、金融機関として債務者からの貸付条件の変更等の申し込みに積極的に応じるということではありませんので、注意が必要です。
5中小企業金融円滑化法施行後の銀行との折衝
事業再生の専門家は大勢います。我々のNPO関西事業再生支援センターは、その専門家の集まりです。
ただこのNPO関西事業再生支援センターが直接的に、再生支援業務の受託をすることはありません。このNPOはそうした専門家の勉強の場であり、日頃は情報交換を行うと同時に、NPOが窓口となって、あるいは会員が相談を受けた業務のメンバーへの廻し向けをしております。しかし事業再生の専門家の中には悪どい連中もいるようです。
脱税に加担して逮捕されたり、あるいは、犯罪性はないにしろ、誤解をされ恨みを買って、新聞に噂を書かれたりしているケースが散見されております。最近も任意整理や過払い請求に絡んで、弁護士法違反で逮捕されたケースが報道されておりました。このようなことはNPO関西事業再生支援センターとしては、最も困ることであり、会員には従来から強く戒めているところでもあります。
これをお読みになった方で事業再生や、資金繰りに関して誰に相談したらいいかを悩んでいる方もいらっしゃると思と思います。この我々のNPOには、税理士以外にも不動産鑑定士、司法書士、元金融マン、不動産のプロなど多士済々です。
我々は中小企業の復権と、関西の経済が少しでも良くなり、そこに働く人々に笑顔を戻ることを祈念しております。安心をしてご相談を頂ければよろしいかと思います。