租税
ときは八世紀、律令国家の時代。「租税」の「租」とは米など土地に課せられる税。租とは「田力=タチカラ」のことであった。「税」も「チカラ」と読む。
~湯島通れば思い出す,お蔦主税の心意気~。ここでは「主税」と書いて「チカラ」と読んでいる。そういえば忠臣蔵にも大石主税という人が出てくる。
もっといえば納めるべき税が農民の手にある間を「租」といい、国の正倉に納められ、財源化されたものを税(オオチカラ)という。ちなみに租・庸・調の庸は労役や防人など人的貢献をいい「庸」は「チカラシロ」という。
所得税は明治20年に創設されている。今でこそ法人税と所得税は分かれているが、当時の所得税は法人所得税も含んでいたのである。戦前の所得税は賦課課税方式で、法人は税務署に損益計算書を提出し、政府が税金を決定した。
個人所得税は所得調査委員会の調査により、政府が決定したのである。
戦後も所得税が白色申告の場合は、業種ごとに所得率というものがあって最近まで、これが使われていたという経緯がある。これなどは、戦前の名残というものだろう。
納税に複式簿記を前提にした会計帳簿が要求されるようになったのは、昭和25年のシャープ税制勧告があってからのことである。当時の占領軍による徴税督励はそれこそ苛斂誅求を極めたものであったらしい。
MPに護衛された税務執行官が、トラックで納税者のもとに督促にきて、当面の生活に必要な米・味・醤油などを除いて、それこそ財産を強制的に没収したのだ。
戦前は日本でも憲兵(=日本のMP)は嫌われた。憲兵だけでなく、税務署員も銀行員も嫌われたのだ。憲兵は、権力を嵩に民にイヤコトをしたからだ。税務署員や銀行員は身ぐるみを剥いだからである。
今はこのようなことはないが、昔は食堂に入っても税務署員や銀行員と判れば同席しなかった。これは山本夏彦がどこかに書いていた。そのような歴史があるから、民は今でも会計帳簿は税務署のために付けると思っている。
複式簿記による会計帳簿と現在の貸借対照表、損益計算書の基礎を作ったのは1400年代を生きたルカ・パチョーリというイタリア人の僧侶であり幾何学者であった人だ。
1600年代、ルイ14世は奢侈で税収が足りなかった、そこでフランスでは、会社が倒産したとき、複式簿記の帳簿が提出できない経営者は処刑にされ、この法律によって実際に何人もの人間が断頭台の露と消えたのである。
会計帳簿はヨーロッパでは生き残る権利であるが、我が国では嫌々遣らされる義務でしかない。このようなところから、税制も粗雑である。
以上がイントロ、本題に入る。
まず陸山会のことだ。言わずと知れた小沢一郎の政治団体である。この団体は「人格のない社団」に分類されるもので権利能力はない。従って陸山会の名前では不動産は買えない。いきおい小沢一郎の名前で買うことになる。
しかし権利能力なき社団は、法人税法第3条で法人とみなして法人税法の適用を受けることになっている。ゼネコンからの寄付については小沢一郎とは無関係であるということで、検察もこれを認めたのであるが、それを以って法人税課されなくともいいということにはならないだろう。
陸山会としては納税義務が発生するのではないか。私は政治資金管理団体の法的性格に熟知するものではないが、政治資金管理団体については、法人税法第3条の例外だとするなら、これは大きな問題である。
いつか小沢一郎もこの陸山会から離れるときがくる。しかしこの権利能力なき社団の法的性格は曖昧なもので、どこまでが個人でどこからが法人かもわからない代物だ。
例えば私が「倉矢会」なる権利能力なき社団を作ろうとすると、これが簡単に作れる。A4の白紙一枚にそれらしき目的と所在地と構成員を書き込めば、完成でする。想像であるが陸山会はそのうち曖昧のまま消滅し不動産の名義は小沢一郎のものとして残るのだろう。
さて鳩山首相は、親から年間1億8千万円の資金贈与を受けていた。首相自身は知らなかったとのことだ。贈与は諾成契約といって、贈与した側とそれを受けた側の双方の了解が成立した時に初めて成り立つ。
首相はマスコミの報道を通じて秘書から話を聞き、やっと貰ったことを理解したのであるから、贈与が成立するのは、その理解をしたとき。すなわち昨年のことである。
母親からの資金提供はかなり以前からのことだと思うが、時効の関係もあって、多分5年分だか7年分だけを修正申告で済ました。
しかし諾成契約という民法の原点に立つなら、この件で時効の援用はできない。即ち知らなかったという理屈は、申告状況を観察すれば頭隠して尻隠さずで、自家撞着を侵している。
これは刑事告発されても致し方のないような大型脱税事件である。
例えば一般調査であっても大きな脱税が発覚すれば査察案件に切り替わることがある。法人税調査を例にとる。告発されるのは、大抵が小さな町の会社であって、上場会社がそのような目に遭うことはない。
上場会社が仮に所得20億円の脱税を指摘されても、修正申告だけで済まされることが殆どだ。他方町の会社であれば所得が8千万円程度の脱税でも、告発されて刑事事件となる。
これはなぜかと云うと、上場会社の場合は当初の確定申告の段階で例えば80億円の所得を出し税務申告をしているからで、脱税した所得額は100億円分の20億円、つまり20%ということである。
他方、町の会社は所得8千万円の脱税であっても元の申告所得がゼロであれば脱税額は100%ということになる。
ここ告発されて震えあがるか、笑って修正に応じるかの違いである。
最近の新聞報道などを見ていると、まあ課税所得金額が6千万円程度の脱税額でも告発されている。
首相が贈与税に関して大型脱税をしたのも関わらず、修正申告だけで事が済んだというのは、どうみてもおかしいのである。
ちなみに大会社の税務修正申告が、公けに晒されるのはなぜか。調査した国税側は一般調査であるし、守秘義務もあるので公開はしない。修正申告に応じた企業側も社会的信用を失うような脱税の話をわざわざプレスリリースするはずがない。
これは想像であるが、その企業の内部に居て、調査内容を熟知し、かつ自らの企業を心よく思わない連中がリークしているのだろうと思う。このようなところからも、企業の経営風土・人間関係が伺い知れるものなのである。
鳩山首相の贈与税に関して、先ほどとは、まるきり反対の事を書く。貰った資金は首相の手許は素通りをしただけのようだ。
贈与税の規定は相続税法のなかにある。相続税法21条の3においては、生活資金には贈与税は課税されない。
首相が受けた母親からの資金は、殆ど首相の手許に留め置かれることなく、仲間の議員に配られてしまった。社会通念からはかなり離れたものではあるにせよ、国会議員の日常生活のなかで、謂わば生活の必要に迫られて母親に無心をしたものである。
生活資金といえるかどうかという問題も残るが、観察の仕方によっては、そのように思えないこともない。だとすれば、贈与税を払うのは法の趣旨に叶うのか、という問題を提起することができる。
もう一つこの件に関して首相の納めた税金は6億円ほどであった。ところでこの資金は誰が出したのか。やはり母親かも知れない。が、これについてはマスコミの突っ込みがない。
これは、贈与税については贈与した側にも連帯納付の義務があるという相続税法の規定を前提にしてのことであろうか。
租税は律令国家の時代から、国家の一大事である。国の運営も時代と共に進歩してこなければならない。
小沢も鳩山も国家の代表である。しかるに小沢には社稷の思いなく、天下を蓄財の道具と考え、法律の抜け穴を見つけて付け込み完全犯罪を犯した。高等ヤクザのやることだ。これでは国民の上に立つことはできない。
鳩山は締りの悪い肛門みたいだ。贈与税への対応を見ても考えが浅い、しかも60歳を越えてまだ母親の脛を齧っている。到底宰相が務まるとは思えない。だから二人とも政治家には向いていない。早く退陣してくれ。