山野草

知っているようで、まったく知らないということがこの世にはある。
山に出かけるようになって足掛け3年目に突入した。最近はあるご夫婦とご一緒することが多くなった。名前は明かしてもよいようにも思うが、ご夫婦の了解を頂いてないことでもあり、一応峰野夫婦といっておこう。このご主人が山野草に滅法強いのである。
石楠花といえば比較的高山に咲く花である。私はこの花にも種があることを、このご主人から教えてもらった。
8月31日大峰山系の某岳に登ったのであるが、頂上付近でこの石楠花の種を採取した。某岳と書いたのは、後で思ったことではあるが、この山での種子の採取が違法かも知れないからだ、しかしここまで書けば頭隠して尻隠さずか。
8月の終わりであるから、種といっても充分に成熟した状態ではなく,青く硬い殻に収まったままのものであった。それを2月間花瓶に挿しておいたところ、殻は茶色に変色し頭が割れて種が毀れ落ちた。またそれは、それが種であると教えて貰わなければ、まさか種とは気が付かないような代物だ、大きさは虱ぐらいか。10月4日の日曜日、買い求めた苔に水をたっぷりと含ませ、脱脂綿に包むようにして平たいプラスチックの入れ物に入れ、2階の窓際に置いた。毎日のように水の管理をしながら観察をしていたところ、10月17日になって、いくつかの種から発芽したものを見つけた。ただこれからどのような育て方をすればよいのかは見当がつかない。

 峰野さんから教えて貰ったことであっと思ったことがある。アケビのことである。
アケビは子供のころは、山に入ってよく採ったものである。
 今までも何回にも渡ってアケビの種を蒔いた。ところが芽を出さない。歩道の植え込みに茂っているのは、苗を買ってきたもので、種から植えたものは芽を出さないのである。
また苗から育てたアケビも季節になると花が咲き、マッチ棒の先ほどの実が成るのだが、これが大きく育たない。不思議でしょうがなかった。
10月12日は天気のよい日曜日であった。この日は峰野夫妻ともども、葛城山に登った。アケビを探したのであるが一向に見つからない。その帰り峰野夫妻の自宅庭に植えているアケビを頂戴した、ご主人自らが脚立に載り取ってくださったものである。私はその日のうちに、これを八つの鉢に分けて植えた。 そのことを次の週の21日峰野さんに報告したところ、その植え方では駄目だという。
アケビには白い果肉がある。この果肉にはアケビの種が芽を出さないような成分が入っているとおっしゃる。つまり蔓になったアケビが、その下にポタリと落ちてもそれでは芽がでないということだ。
果肉を小動物が食べて、遠くに運んで糞と一緒に落ちたものが芽を出すのだそうである。アケビにすれば、近くに種が落ちてそれが芽を出すようなことになれば、自らの環境が阻害されるらしい。だから小動物の身体を借りて遠くに種を運ぶのだそうだ。ちなみに植物の葉にも、そのような成分が入っているのだそうだ。ある植物の種がその下に落ち、その葉が落葉したとき、やはりその種は芽を出さないそうである。
 この話を聞き、その日の夕方一週間前に鉢植えをしたアケビを掘り出して、植え替えたのはいうまでもない。アケビには三つ葉と五つ葉があり、これが両方あって実がなるということを教えて下さったのも峰野さんである。
 アケビは子供の頃から馴染んでいる。そのことだけでアケビのことは何でも知っているような錯覚に陥っていたのである。考えてみれば、アケビに限らず身の回りにある全ての事柄は殆ど何も知らないのかも知れない。

 10月21日はとても天気が良かった。登ったのは岩湧山である。峰野さんは人の世話が好きでいらっしゃる。この日もいつものように携帯のガスコンロで雑煮を作って下さった。私は餅を四つ頂いた。