役員退職金の会計処理~最近の相談事例

役員の退任に伴う退職金は、通常金額が大きくなります。この会計処理について、どのタイミングで費用処理(損金経理)をするかは、法人税務に止まらず、金融機関等の利害関係者対しても大きな印象を与えることになります。
最近の傾向として、上場をしているような大手法人については、退職をする役員に退職金の支給するケースが減ってきているようですが、中小企業においては、そのような方向にはなく、従来どおり退職金を支給することが多いように思います。
 以下は、退職金の金額の妥当性についてではなく、税務上許容される損金の時期とはいつか、ということについて見解をまとめたものです。私の個人的見解も入っておりますから応用されるに当っては注意下さい。

1株主総会等で決定した事業年度で一括支給をするとともに損金経理をした場合
 通常はこのように会計処理と税務処理をするのが一般的です。

2支払時に損金経理をしたものの、株主総会での決定が翌事業年度となった場合
この処理にも税務的には別段の問題はありません。ただ株主総会での決定なしに支払ったことについての合理的説明が問われそうです。

3支払時に仮払経理をした後、翌年の株主総会等で決定をした場合
法人税法上、損金経理は確定基準で考えるのが原則ですから、株主総会等で決定された日の属する事業年度で損金とすべきです。このケースでは仮払経理をした事業年度において別表での減算処理は容認されません。また、株主総会等の決定があった事業年度で損金経理をしなければ、税法上は永久に損失とする機会を失うことになります。

4株主総会等で決定をし、その事業年度で支給をしたが、それを仮払経理とした場合
法人税法は債務については確定基準をとっています。株主総会での決定によりその年度での支払いをしたのですから、全額を別表で減算しなければなりません。
確定した事業年度での減算処理を怠ると、税法上は損失とする機会を失うことになります。
しかし通常の会計処理の基準には馴染みません。このような方法を採用する場合というのは、会社の利益状況が芳しくないにもかかわらず、退職金の支給を余儀なくされるようなケースであると思われます。

5未払経理をした翌序業年度の株主総会等で決定をして支払った場合
この場合、未払経理をした事業年度では、法人税法上の費用とすることはできませんから、費用処理をしたのであれば別表で加算するとともに、翌事業年度において支払の事実に基づき、未払金を消し、その同額を別表で減算することになります。しかし、未払経理をした事業年度では債務が確定しているとは言えませんから、費用の認識方法としては問題がありそうです。 

6役員退職給付引当金を取り崩して支払う場合
役員に対する退職金を過年度において、役員退職給付引当金として有税で引当て、株主総会等での決定に基づきこれを取り崩して支払いに充当した場合には、その取り崩した金額を別表で減算処理をすることが可能です。これは平成18年以前には税法上は許されないことでした。
平成18年以前においては税法上、その取り崩した金額を一旦収入科目で受け入れ、支払退職金の全額を損金経理することが要求されておりました。
5の設問とは基本的に同じで、負債勘定で使った科目が違うだけの話です。
ただ長年に渡って、「役員退職金は損金経理」ということが肚に染み込んでいますから、
 損金経理なしに退職金を支払うという処理は、なんとなく気色が悪いものがありあります。

7株主総会で支給する旨の決定をし、その翌事業年度の取締役で支給金額が確定、さらに支給が翌々事業年度となった場合
役員退職金は、株主総会での決定をされた日の属する事業年度で損金経理をするのが原則ですが、株主総会での決議が支給する旨だけで、具体的な支給金額が取締役会に一任されているようなケースでは、その具体的に確定した日に属する事業年度で損金経理をすることになります。
しかし通達は支払った事業年度での損金経理を容認していますから、このケースで支払いが株主総会で決定された年度の翌々年度であっても、その支払った年度で損金経理することには問題はないと思います。しかし一般的にはありえない処理というべきです。資金繰りが厳しかったかなにかでしょうから、その遅れた理由がしっかりしていることが大切です。例えば税務上の累損を上手く遣うために、恣意性が働いたようなケースでは問題があると考えます。

8取締役が監査役になった場合(分掌変更に伴い報酬が1/2以下となるケース)
取締役が監査役になったことに伴い、取締役の期間に対応する退職金を支給する場合には、実際の支給の事実があれば損金経理をすることに問題はありません。常勤役員が非常勤役員になった場合も同様です。これらはいずれも降格人事に伴う支給に該当するということです。しかし実際に支給することが条件で、未払金経理での損金扱いは法人税法上は容認されません。また監査役が取締役になった場合においては、監査役の期間に対応する退職金の支給は認められておりません。監査役が取締役になるというのは、これは昇格人事であって、降格人事とは考えないということです。

9役員退職金の分割支給
3年ならまったく問題なし。まあそれが5年程度の期間に渡っての分割支給であっても、例えば資金繰りの都合であるとか理由がはっきりしていれば問題なしと考えます。
この場合、役員退職金の支給を受けた側は、その全額を決定があった日の属する年度の退職所得として計算しなければならず、分割期間に応じて申告することは許されません。
ただし、株主総会等での決定があつた日の属する事業年度で全額を支給するも、その1/5をその事業年度で損金経理をし、残り4/5を繰延経理することは許されません。
また仮に退職金全額の1/2を退職金として決議して支給するとともに、残り1/2を年金として、15年間に渡って年金として支給するようなことがあっても良いのかも知れません。しかし所得税法上、年金は雑所得となります。年金となった場合はその支給のつど損金経理をすることになります。
私の個人的見解ですが、例えば1億円の退職金を支払うとして、その1/2を決定した事業年度で支給して損金経理をし、残りを10年間の年金として支給するという方法は、会社の負担感、会計処理の視点、その受給をされた個人の側の税金の負担感等に照らして面白い方法であると感じています。
ただ中小企業の場合、業績の浮き沈みが激しいですから将来15年間に渡って払い続けられるかどうかは考えねばなりません。役員退職金は常時潤沢な資金がある場合は別として、業績が高揚期にあるときでないと、払えるものでもありません。

10全額を年金とした場合
全額を年金として、例えば20年間に渡って月50万円を支給するとした場合、9でも書きましたが受け取る側は年金として雑所得になります。またこうした支払方法に別段の問題はありません。
しかし受給する側としては、退職所得控除の適用を受けることはできません。また、その20年の間に本人が死亡した場合、相続問題が発生しますから残りの受給権が誰に帰属するのかといったことについて、予め決定しておく必要がありそうです。