インボイスへの対応

1インボイス制度は電子帳簿の保存制度とは異なる制度です

10月からインボイス制度が開始しますが、令和6年度から本格適用となる電子帳簿の保存とは異なる制度です。

電子帳簿保存法は、その趣旨を要約すれば、「自己が最初の記録から電子計算機を使用して作成する場合には・・・・それをもって帳簿の備付け及び保存に代えることができる」、というものです。

厄介なのはインボイス制度の方で、消費税法に、適格請求書発行事業者を位置づけ、適格請求書(インボイス)の交付義務を創設した、ということです。

これら2つの法律改正を、商売の好機と捉えたベンダーが煽っていて、実務界に混乱と緊張が走っているという側面は見られます。

消費税法には、帳簿の保存義務が置かれており、その記載事項として、①仕入先の名称、②仕入の年月日、③仕入の資産又は役務の内容、④その支払対価の額が要件とされています。

消耗品を購入した場合など、②と③は記載のない元帳など散見されるところで、経験上それが問題になったことはありません。

ただ○○系の商工団体などの会員で、最初から適正申告の意思なく、意図的に杜撰な申告をしていて、仕入税額を全額否認されたケースはあるようです。

法律や通達は、正確な理解が得られるよう、誤解を受けないように、水も漏らさぬ設計をし、文脈と文面も整えます。

記帳は会計ソフトを使うにしても、人の手を通しますし、時間効率など考えれば、法律や通達のように理非曲直を極めた正確性をもって、作成はできません。

他の税法もそこは同じで、国は法律や通達は精緻に作りますが、商行為そのものは実に雑多で、法律や通達に適合すべく記帳するというのは大変な作業です。

国もその辺りはよく分かっていて、実務面は、投網にも似て小魚は逃がしても構わない、という建付になっていることが多いものです。

仮に税務調査を受けたとしましょう。調査官も限られた時間のなかで調査をするのですから、微に入り細を穿って隅々まで目を通す訳には参りません。

また調査官も人の子、重箱の隅をツツクように細かいところを指摘して、納税者から嫌われるのは嫌だと思いますよ。

現在の免税事業者は460万ですが、課税事業者となりうるのは160万、7月時点で92万の事業者が課税事業者申請をしました(日経9月7日朝刊)。

7月時点で、まだ68万が宙に浮いた状態にあるのです。

そこで既に課税事業者である皆さまと、こらから課税事業者となられる皆さまに分けて、実務的に大事な点を書出してみたいと思います。

2課税事業者である皆様

  • カード決済を、内容を開示しないまま交際費などで処理している場合

登録番号の記載のある領収書あるいは請求書などは必ず取得して、保存するようにして下さい。これまでのように帳簿に記載しただけでは仕入税額控除が出来なくなる可能性が高くなります。少なくとも法律的にはアウトです。

企業において交際費などカードでの決済が年間1,000万円以上であるにも関わらず、証憑書類は、銀行の引落明細のみというケースも見られます。税務署は手ぐすねを引いて待っているような気がします。

  • インボイスの交付を受けることが困難な取引の場合における3万円未満の公共交通機関の運賃などは、帳簿のみの記載で仕入税額控除ができることになっています。

小口の支払いや、値引きなどで金額が僅少なものについては、担当者からの申告を条件に、インボイス等がなくてもあまり気にしないで、仕入税額控除を適用していいであろうと倉矢は考えています。理由は先に書いたとおりで、帳簿の保存義務と同列です。

コインパーキングの支払いは、そのレシートを保存しましょう。高速道路を利用した場合は、高速道路会社が運営するWeb上の「ETC利用照会サービス」から「利用証明書」をダウンロードして、電子簡易インボイスとして保存してください。

  • 免税事業者からの課税仕入れについては、令和8年9月30日までは、その仕入税額の80%、令和11年9月までは、50%控除が可能です。
  • 契約書があり、毎月同額の金額が発生するような座振替での支払は、銀行の振込金依頼書があれば、特に領収書等がなくても問題はないでしょう。

3これから課税事業者となる皆さま

  • 基準期間の課税売上が1,000万円以下である免税事業者が、インボイス発行事業者となり、本則課税を選択した場合であれ、簡易課税を選択した」場合であれ、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは、算出税額の20%を納めればいいことになっています。

 ただし、簡易課税の適用を受けるみなし仕入れ率90%の課税事業者が、この軽減措置を使えば、逆に税負担が増えます。

  • インボイス制度開始前にインボイス発行事業者の登録を取り下げるのであれば、令和5年9月30日までにしなければなりません。
  • インボイス発行事業者が登録を取り消すケースにおいては、翌課税機関の初日から起算して15日前の日までに届出書を提出することが必要です。

 但し登録日から2年を経過する日の課税期間の末日までは、納税義務が免除されません。

4その他

  • 免税事業者はインボイスの発行はできないのですが、免税事業者からの仕入れに消費税相当を転嫁することは可能です。

 (ただ仮に大手がこの転嫁をした場合、公取あたりから下請けイジメの問題が提起されるような気もしますが大丈夫なのでしょうかね。)

  •  小規模事業者(基準期間の課税売上げが1,000万円以下の者)に対する納税額は、軽減措置として令和8年9月30日までは、売上税額の2割に軽減されます。

5電子帳簿の保存

 電子帳簿保存法の適用を受けるのであれば、 電子取引データー(EDI Ele

ctronic Data Interchange)は、令和6年1月以降は、必ず電子保存をして

ください。専用システムとしては,NTTファイナスの「楽々クラウド電子帳簿保存

サービス by ClimberCloud」などはお勧めかも知れません。

 電子取引により、受領し又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積

書についても①と同じです。

6税制を歴史から考察すると

税制というのは、社会に与える影響が大きいもので、国の文化を変えてしまうほどの影響力を持つ場合があるもので、民度・歴史を考慮にいれて、設計をすべきもので有ろうと思います。

「高き屋に登りてみれば煙立つ民のかまどは賑わいにけり」

仁徳天皇は、民が困窮しているのをみかねて3年間、税を免除したという故事が基にあります。

また17条憲法の12条に、「国のつかさ国のみやっこは百姓におさめとることなかれ」とあります。要はメチャクチャな税金はとるなよ、ということです。

これは国と国民の合意事項であると思うのですが、消費税はどうなのでしょうね。

消費税ができたのは、昭和63年、暮れも押し迫った12月下旬であったと記憶しています。竹下内閣のときでした。プラザ合意の後で、時恰もバブルの始まりの時期でした。

それから35年が経過しました。

失われた30年は、この消費税の導入に始まったというのが私の理解です。